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フランス修行をしたシェフが長野暮らしを選んだ理由

2018年03月22日

アチュー・ワークス

フランス修行をしたシェフが長野暮らしを選んだ理由

ちょうどよい距離感の移住・二拠点

フランス修行をしたシェフが長野暮らしを選んだ理由

香港、台湾、豪州、カナダ、ドイツなど世界から集まるロッジホテル「マリレン」のスタッフたち(一番右が三石さん)。みんな、白馬の美しい雪で思う存分滑ることも大切な目的。彼らもまた自身のワーク・ライフ・バランスを楽しむ。


東京のフレンチを皮切りにパリを始めフランス各地の名店で経験を積んだ三石温士(ミツイシアツシ)さん。帰国後、復帰、開業という業界の既定路線に乗らず、そのまま拠点を故郷・長野に構え、フリーランス料理人という働き方をしています。店舗を持たず、所属もしない生き方。そこには都会とほどよい距離でくらす新たな価値がみえました。

田舎、でも世界に近い場所にいる

三石さんを訪ねたのはスキーシーズン真っただ中の白馬。最近は日本人客よりもむしろ外国人、特に欧米、オーストラリアなどからの来訪者も多く、街中に英語の看板があり、長期滞在用の別荘やホテルの英語の案内も数多く見られます。12月~3月の4か月間、三石さんの冬の拠点はこの場所、外国人の長期滞在者向けロッジホテル「マリレン」のダイニングです。

多くの外国人ゲストで賑わうホテル「マリレン」。


三石さん:フランスから日本に戻って5年。このホテルでは3年目です。ここはゲストも厨房のスタッフもこの時期にだけ外国から来られる人。スタッフもスキーやボード目当てで、ホテルの目の前がゲレンデですから早く滑りに行きたいんです(笑)。


香港から来た男性スタッフのジョーさんは「ミツさん パーフェクト! ゼッタイ、オイシイデス」と、三石さんをリスペクトしています。彼らにとっては、本場フレンチのテクニックを少しカジュアルなダイニングで学びながら冬レジャーを異国で楽しめるという、なんとも贅沢な冬なのです。


三石さん:このホテルでの僕の役割は、シェフ、職人というよりは僕がいなくても彼らが動けるようにコンサル的な視点でかかわること。普通のシェフという感じではないですね。


料理を作るということだけにフォーカスするのではなく、スタッフの実情に配慮したオペレーションやメニューを検討。ホテル側としてもメリットがあるとともに、三石さん自身がより軽やかにいろいろなことに挑戦できる仕組みづくりをしていくことで、シェフの定番的な働き方や暮らし方とは違う、自分らしい日々と将来設計を描くことを目指しています。

ホテルの目の前はゲレンデ。怪我をしては仕事に差し支えるということで三石さんが思いっきり滑るのはシーズン終わりに近づいてから。

フランスで気づかされたシェフの過ごし方

三石さんは長野で、いわゆる「自分の城」というような店舗や拠点を持っていません。1年間、いくつかの場所、仕事をローテーションします。4月~7月は実家である佐久市の果樹園で畑仕事、食材づくり。その間のゴールデンウィークは軽井沢のレストラン、8月~10月も軽井沢に滞在し飲食業に関わり、11月はパリやブルゴーニュへバカンスも兼ね、修行時代のコネクションを生かした食材やワインの買い付け、食べ歩きなどインプットの時間とし、12月~3月はここ白馬に滞在。その間、出張料理人として別荘やレストランでの活動、ワイン会などの開催も行っています。どの場所で行うことも、どの地域で行うことも点ではなく線。自身の手掛けた野菜で料理を作り、フランスでのインプットがまた料理に生かされ、逆に地元食材の良さへの気づきにもなります。また、夏の軽井沢、冬の白馬という長野が誇る2つの人気リゾートですが、どちらも集客の時期はそのシーズン。1年を通して同じ体制を組むよりもハイシーズン・ローシーズンに合わせたオペレーションが必要となるため、ちょうど三石さんの働き方と、どちらもメリットのある関係にあります。

実家の果樹園にて野菜も栽培。「東京は何でも手に入るというのがテロワール(風土)。ここでは、ここでしか手に入らないものを生かすことがテロワール」。常に近くで見ているからこそ旬だけではない良さもわかる。「アスパラガスも一番太い時期ではない時期の良さがあって、大根も冬を越えて春になったとき、その花がまたいい食材になったりする。近くで見ていると楽しいです」


三石さん:5年目にしてようやくこのサイクルが定着してきました。僕が戻ったことでせっかくの家業を途絶えさせず生かすこともできますし、僕自身は改めて地元食材の良さを理解し、安心して料理に使うこともできます。食材の原価も抑えられますから、これは僕にとってもお客様にとってもメリットがあります。ちょうどワインが仕込まれ、いい食材も出てくる時期にフランスに行くこともできる。年に1か月のバカンス。贅沢に聞こえますが、フランスのシェフは当たり前のこと。ここで彼らはインプットの時間をしっかり持ちます。この当たり前が日本の飲食業界ではできない。実は、こうした飲食業界での働き方という問題意識が、今のやり方の根底にあるんです。


軽井沢での出張料理。野菜の前菜。食通も多く、緊張感は東京やフランスと変わらない。バターや塩、オイルは11月の「バカンス」でフランスから買い付けたものを。


三石さんのキャリアは東京のフレンチがスタート。それから単身渡仏し、パリの著名なビストロやいわゆる星付きレストランの星獲得に大きく貢献するなど活躍してきましたが、その間に業界で生きていくためのくらしぶりに疑問が大きくなっていきました。


三石さん:東京での下積み時代に、長時間労働が原因で体を壊し2度入院。正直、他の料理人と同じ働き方では体力負けすると思いました。ところがフランスでは週休2日、午後の休憩時間も長い。シェフ、スタッフたちはしっかりバカンスを1か月取る。日本、特に都会のレストランではサービス残業が当たり前の状況ですから自分の考えるワーク・ライフ・バランスは難しい。どうしたらフランスなみの休暇を獲得しながら料理人を続けられるのかをずーっと考えていたんです。


帰国後のキャリアとしてはさらに2つの不安があったといいます。


三石さん:日本の飲食業界では、独立する際に高額の開店資金が必要にもかかわらず、独立後5年程度で閉店するケースがとても多い。仮に続いても利益が上がらないというハイリスク・ローリターン。そのために長時間労働が必要になってくる。こうした独立、継続をどう乗り切っていくのか。もうひとつは、情報発信のやり方です。都内でオープンとなればそれなりにメディアに取り上げてもらって話題をつくっていろいろな人に来ていただくということをしていかなければいけません。僕自身多くの方に食の幸せを伝えたいとは思いますが、こうしたみなさんすべてが満足されるような料理、空間、サービスを提供しようとすればどうしても無理が出てくる。僕の料理や考え方に共感してもらえる方に来ていただく方が、結果、ご迷惑をかけないのかなとも考えました。

地域のニーズと自分のスキル

そこで三石さんが取った手段が、現状ではレンタルキッチンや各季節の拠点となる厨房を活用すること。そして今後は、空き家や古民家を利用した、お店ではない出張料理のラボ的な場所で、かつ、地域の活性化につながるようなスペースづくりをすることです。幸い、この5年の活動でこうした物件を目にすることも多く、自身と地域のためにも取得する計画を立てていこうとしています。もうひとつは共感を得るためのSNSでの継続した発信。

「体力だけでいったら料理人は30代がピーク。50代、60代とその先を考えると従来通りの働き方をしていたら不安ばかりでした」。移住に際して絶対の自信があったわけではないと三石さんも振り返るが、5年たってようやく落ち着いてきたようです。


三石さん:フランス時代からブログに活動をまとめてきました。現在はますますその必要性を感じていて「フランス帰りシェフの信州田舎暮らし。」というタイトルのブログを続けています。お店としてメディアに取り上げていただくのではなく自分の考えやそれに基づく活動を見ていただく。個人でも仕事をいただけるようにする、それならばと足を運んで食べに来ていただく。そのためにはとても大切な活動です。


フランスの著名店での経験もあるシェフの移住というと何か特別な事例とも聞こえますが、三石さんがたまたまシェフという職業であったからで、自分のスキルを活かして移住するという点ではどの職業も変わらないのでは? と三石さんは考えます。


三石さん:自分のスキルをどのように移住した地域で生かすのかを考えることが、どの仕事でも重要だと思うんです。例えば長野県はフレンチにあう野菜や乳製品などが豊富。最近ではワインも評価が高まっています。いわゆる海なし県なので新鮮な魚介を使った鮨、和食というよりも、フレンチが求められる素地は大きいと思います。自分の強みと地元のニーズがあって、そこではじめて自分の心地よいワーク・ライフ・バランスが生まれるのではないでしょうか。

東京とのほどよい時間、距離感、温度感

例えば軽井沢の別荘地を所有する人を相手にすることは、都内と変わらない、というよりも、むしろ豊かな食の体験を重ねられた方々を相手にすること。それなりの経験と知識を持った料理人だからこそ信頼され、迎え入れられるのでしょう。実は三石さんにとっては、東京ではなく、長野に移ったことで、より世界とのアクセスが日常的になっています。それは白馬のホテルでのスタッフたち、ゲストたちとの交流であり、ワーク・ライフ・バランスを追求したからこそ生まれた、年に1度のバカンス。新幹線で1時間20分というわずかの時間で東京にもいつでもアクセスでき、逆に東京からのゲストもその時間で三石さんのワイン&料理会や軽井沢の店に来てくれる。ゲストにとって、その1時間20分は、ほどよく非日常になる時間と距離でもあり、そのゲストが東京の感覚で評価してくれることは、三石さんにとっても自身の現在地点を知る良い刺激でもあります。

三石さんの実家の果樹園。春には貴陽(スモモ)の花が開花する。


田舎だからこそ世界にも東京にも程よい距離感を持ちつつ、世間を狭めるのではなく広げることができる。そのために自分のスキルとその地域のニーズがどう手を結ぶのかを考える。最適な移住先選びに、こうした視点を持ってみてはいかがでしょうか。


(取材・文/岩瀬大二 撮影/片山よしお)

最終更新日:2018年08月30日

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