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日本酒造りの共同生活 さまざまな世代が暮らす部屋でのルール

2018年07月31日

アチュー・ワークス

日本酒造りの共同生活 さまざまな世代が暮らす部屋でのルール

シェアハウスのルール#1

日本酒造りの共同生活 さまざまな世代が暮らす部屋でのルール

水の都でもある水戸で江戸時代から親しまれる吉久保酒造。伝統を守りながらもサバにあうお酒「SABAdeSHU」を開発したり、海外でも展開するなど進取の精神も

酒造りはチームワーク。司令塔である杜氏(とうじ)を中心に、さまざまな工程を担うプロフェッショナルが集い、お酒を生み出します。行程的に酒造りのピークとなる11月から4月の間、このチームは酒蔵の中で寝食を共にし、昼夜問わず酒造りにコミットし、これが毎年繰り返されます。いい酒を造るために集った職人たちですから、ぶつかりあうこともあるでしょう。その中で集団生活を円滑にするためには? 近年、お酒の世界で評価が高まっている茨城県。水戸市で228年続く酒蔵、吉久保酒造の杜氏、鈴木忠幸さんにお話しを伺いました。

干渉しないこと、無理強いしないこと

半年以上休みなし。麹づくりの期間は、管理のために夜中も2時間に1回は巡回。寝られない夜もありハードな日々が続きます。杜氏の鈴木さんは「さまざまな工程で機器を使ってデータでも管理していますが、それでも些細な変化をすぐにキャッチし、間違った方向に行かないようにするためには人の目が必要なんです」と言います。その間、酒蔵の宿泊所に寝泊まり。男ばかり6人の生活。明文化されたルールはあるのでしょうか?


宿泊室は2部屋。こちらの部屋ではそれぞれのスペースはくじびきで決定。ベッドにしたり布団にしたりにも個性が出る。それぞれ干渉せずに自由な時間をここで過ごす。冷蔵庫の中は意外と酒は少な目。

こちらは6畳和室の杜氏部屋。こぢんまりした旅館風だが、酒造りがピークになれば、ゆっくり休む時間もなくなってくる


鈴木さん:仕事の時間以外は、お互い干渉しない、無理強いをしないことがルールといえばルールですかね。自分のことは自分でやる。そして気がついたことは自分でやる、ということですね。休憩時間になりました。では、一緒にご飯食べに行くか、ということも言わないんです。テレビはありますが、じゃあ、一緒に何か見ようともなりません。なにか一緒にやらなきゃと思うものがあるだけでもいやなんですよね、お互い。これからご飯食べに行きますともいいません。自由時間ですからね。極力、自分のやることを相手に意識させない。


実は酒造りのメンバーは、鈴木さん以外は卓球、野球、バスケットボールと体育会系出身。鈴木さんの優しい表情も酒造りの際には猛者たちもピリッとする厳しいものに変わるのだそう。


明文化したルールを壁に貼りだしたりするわけでもなく、それぞれがすっと自分の時間、お互いに干渉しない時間に入る。それがルールといえばルールとのこと。食堂には炊飯器が複数並びますが、それぞれ炊いて、それぞれの時間に、それぞれで食べる。たまたま「じゃあ一緒に炊いておくよ」という場合は他の人の分も炊いたりしますが、それはレアケース。


鈴木さん:宿泊部屋の掃除も気がついたものがやります。それが自然になってますね。おまえのベッド回り片付いてないからきれいにしておいたぞというのも気が引けるので、掃除してもなにもいいません。


米は自由に炊き、近くの商店から総菜を購入するなどして、こちらも自由に。ときには自然に楽しい話題で輪が広がることもある。

オンとオフの切り替えをしっかり

とはいえ酒造りのために一緒にいる生活。酒造りの激論、仕事を円滑に進めるための議論は欠かせないものでしょう。特に吉久保酒造のメンバーはそれぞれがプロフェッショナル。彼ら自身、「麹屋」「酛屋」「醪(もろみ)屋」などと尊敬しあい、酒造りの各パートを、責任をもって担うとともに、全員がすべてのパートにも参加する。どこかの工程で起こる問題は自分が責任を持つパートにも響きますし、なにより最終的に描く「いいお酒を造る」という共有ヴィジョンの実現のためには黙っているわけにはいかないのでは?



鈴木さん:いえ、それは仕事中に済ませます。オンオフはしっかり分けないと続かないです。オフの時間にそんな話をはじめてしまったら、酒造りの場所も宿泊所も同じところにありますから、寝るまで続いちゃいますしね(笑)。オフの時にいつまでも仕事の話をしないように、また相手のことをスルーできるように、逆に仕事中には気がついたときにすぐ言い合えるようにしています。そこで全部言い合ってスッキリすれば、食堂でも部屋に戻っても、気にならないですから。


むしろオフ時間に課題を引っ張る余裕などなく、その場で解決しなければいけないのが酒造り。作業の中には秒単位、グラム単位で集中して判断しなければならないものもあります。オンには言い合える関係であり、オフには無干渉でいられる関係。この関係性を造ることが大切なようです。

世代ごとの価値観、意識への対応

もうひとつルール作りで難しいと思われるのは世代の違いです。杜氏である鈴木さんは40代。一緒に酒造りに関わる同世代の社長を筆頭に、30代、20代後半、そして成人になりたての若者まで、7人の世代はバラバラ。さらに家族がいる人、独身の人では意識の差も出てきます。


鈴木さん:一番下の子は自分の子供の一つ下ですからね(苦笑)。目線としては、「自分もあのころはこうだったかもしれない」。時代、時代でやり方も違ってきますし、考え方も違う。話題も違いますしね。オフに、これ見ろよとか、これをやれとか押し付けることはありません。それぞれの個性が、良い意味で酒造りに反映されると考えているんです。みんながオフの時まで同じ考えで、同じ行動を、まして杜氏の私の考え方ばかりになったら、オンの時に言い合えないですよね。何か間違った方向に行きそうなとき、それに気づき、またモノを言うためにも、上の立場の人間の決めたルールで縛るのは違うと思うんです。そのいろいろな個性が酒造りの気づきになり、その個性を生かすために自然にルールというのはできてくるのではないでしょうか。


杜氏という仕事に対しては強烈なリーダーシップ、天才的な振る舞いというようなイメージがありましたが、鈴木さんの考え方は違うようです。


社長曰く理系、理詰めでしっかりしているという鈴木さん。感覚は信じながらもデータや理論を重視しながら酒造りにまい進。一人で集中すべき作業と集団でしなければいけない作業。ここにも干渉されたくない時間と自由に言い合える時間の2つがある。


鈴木さん:繰り返しますが酒造りは一人ではできない。いい酒を造るためにはみんなの力が必要で、そのために気分よく取り組んでもらうコントロールも私の仕事です。意見を言いやすく、それぞれの個性を生かしながら一緒に取り組める環境づくり。そのためには押しつけのルールは逆効果だと思っています。

でもこれだけは守って欲しいこと

その中で唯一といっていい、鈴木さんがみなさんに守って欲しいルールがあると言います。それはちょっと意外なリクエスト。


鈴木さん:家に帰れるときはできるだけ帰って、少しの時間でも家族と過ごしてほしいんです。幸い、スタッフたちは実家や家族が近隣に住んでいるので、今日は大丈夫だなという時は、風呂の時間だけでも家に帰って、子どもと一緒に入って戻ってくる。私自身、残念ながら子供の授業参観も運動会も見に行くことができず、家族にも申し訳なかったし、自分自身も寂しかった。いい酒造りのためにはそれではいけないと思うんです。もちろんどうしてもいけないことはあります。だからこそ、普段、集団生活に入る6カ月間の間でもできるだけ家族との時間を持ってほしい。私がみんなに求める、いい酒造りのための集団生活のルールは、これですね。


多彩なラインナップから、今回のおススメの1本は「純米吟醸 一品」。薫り高くきめ細やかな飲み口。良い集団生活だからこそ生まれる幸せな日本酒。


ものを言い合える時間と、そのための干渉しない時間。上の者が決めるルールではなく、お互いが自然に作り上げていく明文化されないルール。それが酒造りの現場でいい酒をつくるために生まれた集団生活のルールでした。


取材・文/岩瀬大二 撮影/根田拓也 

最終更新日:2018年08月29日

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