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女子プロレスの共同生活。ライバルとの闘いと仲間との絆

2018年08月23日

アチュー・ワークス

女子プロレスの共同生活。ライバルとの闘いと仲間との絆

シェアハウスのルール#2

女子プロレスの共同生活。ライバルとの闘いと仲間との絆

2015年に設立という若い団体ながら着実に若手選手も成長している「マーベラス」。このほか、女子プロレスブームを支えたベテラン選手も在籍。

女子プロレスラーが共同生活する寮。と聞くと厳しい上下関係、練習や試合でのライバル心が持ち込まれるギスギスした時間、さまざまな強制というようなどこかネガティブなイメージが浮かんでしまう人も多いでしょう。実際、そういうことも昔はあったようです。「でも、時代は変わり、こうした理不尽ともいえるルールでは、よい練習も、よい試合も、よい興行もできないんです」というのはその昔の厳しい制約の時代を生き、クラッシュギャルズとして女子プロレスというジャンルを超えて大スターとなった長与千種さん。長与さんが設立した女子プロレス団体「マーベラス」では、長与さん自身の考え方を反映し、理にかなったルールによる寮での生活を目指していました。

守るべき2つの約束事

プロとしてデビューしている選手、練習生の7名に加え、外国人選手2名、創設者である長与千種さんが共同生活をするマーベラスの寮。年齢は25歳から16歳までとさまざま。現在の寮長は、彩羽匠(いろはたくみ)さん。女子プロレス業界で注目されるトップ選手の一人です。彩羽さんに共同生活を円滑にするための寮の明文化されたルールを聞くと意外な言葉が返ってきました。


彩羽さん:以前の寮では、冷蔵庫や洗面所、トイレ、壁などに決め事をびっしりと貼り紙をしていたのですが、この寮になってからはしていないんです。新築になったので遠慮しているということもあるんですが(笑)、それ以上に、自分たちで気づいて行動しようということにしています。決めているのは2つの約束事だけで、あとは特にないんです。


マーベラスのエース格、彩羽匠さん。2013年デビューし、2015年からマーベラス入団。打撃、関節技から飛び技まで多彩かつ力強い試合で人気。


竹刀でバシバシ叩きながら、あれをしてはいけない、これをしなければいけない、というのは外野の勝手なイメージなのでしょうか。


彩羽さん:昔のことはわかりませんが、ここではそういうことはないですね。2つの約束事のうち1つめは、「きれいにする」こと。常識を学ぶ場として寮生活を送ろうということです。プロレスラーって私みたいなこういう見た目で、奇抜に見えるじゃないですか(笑)。外に出たときにゴミが落ちていることに気づいて拾って捨てる。脱いだ靴を揃えてなおす。当たり前のことですけれど、見た目がこんな私たちだからこそ気づいてちゃんとする。いえ、できればそれ以上のことまで気づいてできることが大切だと思っています。16歳の練習生にとっては、親元で育ってきて、今までは親がやってくれていたことかもしれません。それを自分たちできちんとやりましょうということ。自分が気づいたらきれいにする。これは大切なルールですね。



普段からきれいに整頓されているキッチンや洗面所。ストレスが蓄積されがちな場所だけに寮長の彩羽さんのチェックはやや厳しめ。


やはり乱暴、野蛮というイメージもある女子プロレス。そしてリングの上の表現や強さを追求する上では、むしろそのイメージも大切。だからこそリングを降りたらちゃんとした一人の人として行動すること。これは長与さんの教えでもあると言います。そして、もうひとつは?


彩羽さん:2つめは「あいさつをしっかりする」。これは徹底しています。あいさつは他団体の方からも褒めていただくことが多いですね。リビングからゴミ袋を取りにいって数秒で戻ってきただけでも「おつかれさまです!」というのはルール。実はこれは礼儀だけが目的ではないんです。あいさつは人と人とのコミュニケーションの基本で、そこから、相手の気持ちが見えてきます。例えば元気に言えるときと声が小さいときで、この子何かあったなってわかる。それで様子を見て、その原因が練習なのか人間関係なのか、気に掛けてみているとわかってくるんです。そのときに、どうした? なんかあった? と聞いてあげる。日常一緒にいるから、あいさつからわかることってすごく多いんです。ただ、声が小さい! 礼儀がなってない! とか叱るわけじゃありません。


この寮から次代のスター選手が生まれる。その日を長与さんは心待ちにしているのだろう。 

人の痛みを共有すること

寮は「教える場所」でもあり「仲間を知る場所」でもある。彩羽さんは団体のトップレスラーとして、また団体を強く、盛り上げていくための若手のリーダーでもあります。だからこそ寮にいることの大切さを肌で感じています。


彩羽さん:私は一時、寮を出て一人暮らしをしていたのですが、戻ってきたんです。ちょっと離れただけで下の子たちのことが見えなくなってしまったんです。私、好きなんですよ、寮が。練習場が隣にあるという環境はもちろんなんですが、ごはんや寮でのあいさつから下の子たちの変化や悩みがわかること。それがとても大切なことだと思っているので。


自然にみんなが集まってくる本当の理由は「実はこの子たちなんじゃないですかね」と彩羽さん。寮では犬や猫たちも共同生活中。この子たちとの時間は選手たちの一番の癒し。


「下の子」たちの気持ちを察する優しさを持つことも彩羽さんの仕事であり、厳しさを教えるのもまた仕事。寮生活は団体に所属するメンバー同士とはいえ、それぞれがトップを目指すプロレスラー。共に戦いながらの、生き残り合戦とも言えます。つまり仲間は同時にライバルで、ライバルは同時に仲間。複雑な人間関係もあることでしょう。


厳しい中に笑顔もこぼれる。このプッシュアップ(腕立て伏せ)も「冷蔵庫の中に野菜を放置してしまった人!」という掛け声で開始。ほぼ全員だったことに彩羽さんは苦笑い。


彩羽さん:そうですね、同じことでもできる人とできない人がいます。そうなると「こんなに練習しているのになぜできないんだろう」という気持ちから相手に対してバチバチした感情、行動になってしまうこともあります。私が常々言うのは相手を責めるのではなく自分を責めろ。自分がもっと頑張ればいいだけの話で人に当たるのは間違っている。一長一短はそれぞれある。やらずに人に当たるのは違うっていいます。これが練習場ではなく、寮にいると、一緒にいる時間も長いですし、その子が受け入れられそうなタイミングをみて言うことができるんです。


個々の向上心と野心。集団としての一体感。相反するように思えることを育む場所。彩羽さんは、ここで何を学び、仲間にも学んでもらいたいと考えているのでしょうか。


彩羽さん:道場は技術や精神力を鍛える場所。寮は人間力を鍛えるところなんじゃないかなと考えています。具体的に言うと、自分がつらいときに人に気をつかうことができる人になれるのか? 皆同じように練習して、同じように暮らしています。そこで、体調が悪い子がいたときに看病できるのか、悩みを聞けるのか。人の痛みがわかる子でないと、人の心に入っていけない。こんなこともあります。プロになった子は体重管理をしなければいけないときがあって食を控えることがあります。逆に練習生は食べても食べても太れない、体が造れない。集団生活とはいえ、それぞれが違います。ちょっと昭和っぽい根性論かもしれませんが、1日中おにぎりやご飯の入ったお茶碗をもって練習の合間に食べることもあります。体重管理をしている子からすれば目の前で食べている姿を見るのは辛いでしょうけれど、食べている子も辛いんだなと思えるようになる。お互い辛い。そこでお互い助け合えるか。その人の痛みや辛さがわかってはじめて、観客の方や、対戦相手の心に響く試合ができるんです。


練習生は相部屋。プロデビューを目指して切磋琢磨。厳しい練習のあといかにリラックスできるかも彼女たちの今の仕事。


生活の中でお互いの状況を見つめあうことで、少しずつ自分自身が、相手の心を気遣えるようになる。新築を理由になくなった貼り紙は、むしろ理にかなったもの。自主性を重んじることで絆は深まっていきます。


彩羽さん:いやぁ、でも、まだまだですね。寮のトイレは、トイレットペーパーを2つセットできるんですが、「ひとつなくなってもうひとつあるからいいや」って取り換えてないとか。それも芯が残っていたり。使い切った人がやろうよって。そうすると私はやった、いいや、あんたはやってないみたいな。あ、私細かいですか?(笑)


これが「争いのもと」のトイレットペーパーホルダー。こういう細かいところから始まるいさかいはどんな共同生活にもありそう。 

今の時代だからできること

彩羽さんのお話を受けて、再度、団体の創設者である長与さんにお話を聞くと、長与さんが目指す寮の姿が見えてきました


マーベラスを設立以降も現役選手としてさまざまなリングで活躍している長与さん。「寮でこの子たちと食事をするのも楽しいですよ」とのことで寮のリビングには長与さんがいることも多い。


長与さん:確かに私たちの時代には厳しいルールはありました。でもそれはあの時代だから。自分たちの時代のやり方が今の子たちの時代にあっているとは思えないんです。今の子には今の子が育ってきた時代があって、だからこそ今の時代にあったものを提供できる。風呂やシャワー、デジタル家電、冷暖房だって今の時代、ちゃんとあるのは当たり前ですよね。変わらないのは、何か日常で悶々とすることがあったら、すぐ隣の練習場で汗を流せばいい。寮と練習所が近くにある。これだけは寮の良さとして変わらず大切なものだと思います。


寮は集団生活の場。痛みを共有しあってみんなで上を目指す。その中でも個々の個性を磨く場所でもあると長与さんは言います。


長与さん:マーベラスは練習量においてはとにかくすごい団体です。これは自信をもって言えます。そしてリングに上がれば緊張の連続。その中で寮は唯一休める場所、ホッとする場所であるべきだと思っているんです。オフのときは思う存分寝だめしてもいい。好きなことができる場所であってほしい。だからデビューした選手は個室になります。他の人と違う過ごし方もできる時間がある。それがプロレスラーとしてのセルフプロデュースにつながっていくんだと思います。伸びしろがある子たちばかりですから楽しみですよ!


時代にあわせて環境もルールも変わる。根性論が必要に思える女子プロレスの寮は、むしろ合理的で自主性を重んじる集団生活。それが試合で輝く個々の選手の才能を育み、団体としての一体感を生むことにつながっているようです。


取材/文:岩瀬大二 撮影:きくちよしみ


【取材協力】

最終更新日:2018年08月29日

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