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古びた店舗付き住居を半年かけてリノベ 晴れて開店するまでの約...

2019年10月17日

アチュー・ワークス

古びた店舗付き住居を半年かけてリノベ 晴れて開店するまでの約半年間の軌跡

FLAT HOUSEに住む#26

古びた店舗付き住居を半年かけてリノベ 晴れて開店するまでの約半年間の軌跡

住宅街によくある寂しき佇まいの住居付き店舗が、いかにして地域交流のショップに生まれ変わったか。今回は団地前の店舗付き住宅を再生させた夫婦のエピソード。歩いているとしばしば見かける「閉店しているのか休業しているのか判らない」団地前にある古びた店舗付き住居 。物件との出会いから入居者探しやオーナーとの話し合い、改修工事などなどさまざまな経緯を経て二つの店舗が晴れて開店に漕ぎ付くまでの約半年間を、ここで写真と共に振り返りたい。

物件との出会い

2012年の夏、ワケあって東京都下T市にある店舗付き住宅を、一時的に仕事部屋として借りることになった。長屋型の店舗付き住宅3戸中の端の一棟で、上下階は中でつながっているメゾネットタイプ。バス通りに面しており、築年数は40年以上という。1階は使わず2階のひと部屋に折りたたみデスクとイスを持ち込み、そこで執筆した

筆者が2ヶ月ほど使った部屋は2階の西側の4畳半。日当りは抜群。ここで拙著『FLAT HOUSE LIFE2』の半分を執筆した


聞けば、半年前まで2軒隣で不動産業を営む女性オーナーの息子夫妻が住んでいたという。1階の店舗は土間からフローリングに改修されていたが、すっかり物置になっていたため「もったいないですねえ。この辺りはなにもないからお店にしましょうよ」と提案してみた。すると、「良い店をやってくれる人がいるなら連れて来て」と即答。家賃は? と訊くと、上下で8万以内でいいという。この即断ぶりにはこちらもきっちりレスポンスせねばという気持ちになった。


住居になる前は蕎麦屋だったようで、基本トーンは和風。出入り口の引き戸は内側からビス留めされていた

トイレの位置が店舗のレイアウト。ここを住居として使っていたというから面白い 


元々は飲食店だったらしく、バス停が眼と鼻。道を挟んで向かいには緑に囲まれたレトロな古い団地がある。近隣には小さなスーパーがあるだけで、ちょっとお茶を飲めるような場所はない。おそらく近隣住人はそういう“人の集まる”場所に飢えているに違いない。であればブルーオーシャン、飲食店をやればあたるはず。カフェでも喫茶店でもやってみたいという人たちは大勢いるだろうが、試せる場所となると極端に少ない。こんな空き物件も山のようにあるというのに一向に店が再開しないのは、未だに保証金だなんだと初期費用に莫大な金額を要求する大家が多いことが大きいのだ。こと首都圏では、金銭的リスクが高過ぎるということがシャッター通りを解消できない第一要因となっている。


エントランスには暖簾かけやメニューウインドウなどが残されている。いかにも和食店といったルックス

入居者はすぐ現れた

ちょうどそんな所へやって来たのが小野木くんと横山さんだった。ふたりは「フラット・ハウスで安全な材料を使った焼き菓子工房をやりたいという知人がいるので、力になって欲しい」と友人Iさんに紹介されたカップル。隣町のアパートに住むふたりは、結婚するにあたって2人で店舗経営したいとのことだった。心当たりの平屋物件が一棟あったが、そちらは距離的にNG。では、と例の物件に案内すると、広さなどに難はあったものの賃料の低さとロケーションのよさが勝りほぼ即決、トントン拍子に入居が決まった。

基本改修はセルフで

おカネはなくとも若さはある2人。彼らには、自分たちでできるところは自らで改修する方針を薦めた。節約はもちろん、その方が愛着も湧くしモチベーションも上がる。何より自分たちで道具・工具を握ることで、今後何かあった時にも自らで処置にあたれる。その入門編としてこういう機会が絶好のチャンスなのだ。もちろん素人では難しい部分もあるので、そこに関しては友人である大工職人の鈴木くんを紹介した。


まずは壁紙剥離から。古くなった壁紙は経年で固着した接着剤が災いし、なかなか剥がれてくれない

一般塗料ではなく、洋漆喰風に仕上げということからジョリパットを選択。屋外用の商品が代名詞の商品だが、内装に使用できるスペックもある

100%素人のはずの2人だが、手を動かす仕事ゆえか覚えは早かった。北側の壁を半分も塗るとなんとなくコツを掴んだ様子。もちろんプロの足下にも及ばないだろうが、先ずやってみることが肝要。セルフリノベートはこの塗装から始まるのだ 

店舗内を土間に戻すためフロアを撤去。すると大きな排水孔が出現

不特定多数の人々のために

焼き菓子工房にする気満々での改修作業を開始した小野木夫妻だったが、筆者は「工房ではなく店舗にすること」をしつこく進言していた。ぴしゃりとドアを閉めて自分たちだけで使うのではなく、不特定多数の人々が集まれる開かれた場所にしてもらいたかったからだ。そもそもこの物件のオーナーとの賃貸交渉は「良いお店にしてくれる人」というのが条件だったはず。ちょっと困惑した顔で「ゆくゆくはそうしたいと考えてますが…」という曖昧な返答に、このホームショップへのコンバートを筆者は呪文のように言い続けた。すると、しぶしぶショップにすることへと2人は舵を切り直してくれた。まあ迷惑至極と感じたことだろうが、後にこのおせっかいが2人の人生を激変させることになる。


和風的エレメンツは撤去。ドアは木製の観音開きに交換

居室への階段をドアで仕切ることは店舗にするための条件。ホームショップで飲食店をする場合これをしないと許可が下りない

什器類も適当なものが安価で見つからなければ自作するべし

狭いキッチンもレイアウトを変え、可能な限りまで仕事のしやすいスペースに

遂にオープン!

セルフ改修が長引き施工期間は3ヶ月を超え予定を大きく上回ってしまったが、いよいよ開店の日を迎えた。店名は『焼き菓子の店 ひとひとて』。商品点数はまだ少ないが、丁寧に作ったものしか並べたくないため無理に量産せずスタート。オープンが遅れても商品点数が少なくても、ホームショップならば許される。自分たちのペースで商いをすればよいのだ。


小野木くんハンドメイドのOPENプレートを出しいよいよ開店!

ディスプレイもまだぎこちなく素人臭いが、そこもまたホームショップの魅力でもある

外で待っていた近隣のお客が代わる代わる店に入り、あっという間に商品が消えてゆく。気がつけば2時間足らずで完売。このあと妻の美里さんが追加の仕込み分を並べるも夕方を待たずに再び完売した

外では買い物が終わったお客たち同士で歓談。ここで知り合う人々が多い

嵐のような初日終了。予想外の売れ行きであった事はいうまでもない。この状態はしばらく続くことになる


当初は菓子工房をひっそりと始めるつもりだった『ひとひとて』は、途中で店舗へと舵を切り直したことでその性質を変えた。近隣の人たちが店内に入り、品を眺め、選び、会話をし、各々が商品を手にしてそれぞれの家に戻るという、「人々が集まる場所」としてのサロンともなったのである。収穫だったのは売り上げや自信だけではない。地域住人からの声だ。「こんなお店ができるのを待っていた」「日々安全で美味しいお菓子が食べられて幸せ」「毎日が楽しくなった」といった声が日々届き、遂には「こんなお店がある街に住んでいることを誇りに思います」ということばをお得意の子どもからもらう。これこそがホームショップ・スタイルであると筆者は思った。


『ひとひとて』の一周年を祝うパーティーの様子。近隣住民は元より、噂を聞きつけて常連になったお客も多数。ひと足先に隣にできた『駄菓子カフェ ヨリミチ』も会場の一部に

次のステージへ

2018年5月、『ひとひとて』は約5年の営業期間を持って閉店した。小野木夫妻は子育てを郷里でしたいと岐阜県に帰り、現在古民家を改修したゲストハウスの運営を始め過疎化が進む故郷のもり立てに尽力している。就職することなく自らでこなす地元でのさまざまな仕事は、T市で手探りで始めたホームショップでの経験が大きく生かされているという。また美里さんも子どもの手が離れたらと、焼き菓子店の再開準備を徐々に始めているそうだ。

因に『ひとひとて』のあとには常連客だったファミリーのような夫妻が移り住み、現在カレーの店を営んでいる。おそらくこの小野木夫妻が作ったホームショップのバトンは、今後も連綿と受け継がれてゆくに違いない。団地前の寂れた店舗住宅から生まれたドラマは、今も小さな潮流をつくっている。


アラタ・クールハンド arata coolhand

(イラストレーター/文筆家 東京出身)

ロゴタイプの制作からパッケージデザイン、広告、CDアートワーク、洋服の企画などを仕事とする。2009年と2012年に東京都下周辺の古い平屋ばかりを網羅した『FLAT HOUSE LIFE』を発刊し(2017年に『FLAT HOUSE LIFE1+2』として復刊)その後一冊一軒の平屋にフォーカスしたよりマニアックな『FLAT HOUSE style』をシリーズ化して自費出版。17年には九州の平屋だけを集めた『FLAT HOUSE LIFE in Kyushu』をリリース。幼少期に山口県の外国人向け平屋住宅での生活を体験、その後東京都下の文化住宅や米軍ハウスでの暮らしを経て、現在は都下の文化住宅と九州の米軍ハウス2拠点を軸に活動する平屋フリーク。 

最終更新日:2019年10月17日

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