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file.010 広島の山間部集落で暮らす野鍛冶の青年

2015年05月27日

夫婦漫才

file.010 広島の山間部集落で暮らす野鍛冶の青年

【連載】地方の若者たちの暮らし

file.010 広島の山間部集落で暮らす野鍛冶の青年

半地下のある一戸建てに一人で住んでいます。

野鍛冶になるために安芸太田町に移住して来た。

最近なにかと注目の「若者の地方暮らし」。住宅事情を中心にその実態をリポートしていく。10回目は広島県の安芸太田町にお住まいの秋田和良さん(28歳)。広島市から60キロメートルの山間部にある安芸太田町に住み、「鍛冶工房金床」にて、家庭で使う包丁や鎌(かま)などの農具や漁具などの刃物を手がける鍛冶屋さん、『野鍛冶』をなりわいにしている。

秋田さん宅の窓ガラスに貼られていた安芸太田町のポスター。大倉さんは自身を「勝手に観光大使」として活動している。


うるしへの興味からスタートして、「使われる道具」作りにたどり着いた。

たくましい顔つきの秋田さん。奥にある障子が、建物の内側と外側とを分ける扉。奥に続く廊下は外へと続く廊下だ。

障子1枚向こうは外ではあまりに寒いので、せめてもの防寒に外廊下の外にビニールカーテンを設置している。

秋田さんは幼少期を生まれ故郷の広島県福山市で過ごし、中学生でうるしに興味を持つ。進学先として工芸を専攻できる有名校への進学の道もあったが、高校は一般校へ進み、大学から専門分野へ進む道を選ぶ。高校卒業後は一浪を経て、うるしも勉強できる富山大学芸術文化学部へ進学。そこでさまざまな素材や工芸の技法に触れるうち、次第に金属に細工をする工芸の『金工』にひかれていく。その理由を次のように話す。

「うるしも好きでしたが、静寂の中で延々と作業が続くのが性に合わないと、金工にも興味を持ち始めました。金工にも、銅板など、いろいろとありますが、個人的に最も質感がかっこ良く感じた『鉄』を極めたいと。最初は金工でオブジェを作りましたが、大学の教授が、手仕事に使う道具の研究をしていて、一度、野鍛冶の現場へ連れて行ってもらい、使われる道具を作る楽しさに気付きました」

事業継承という形だったので、始めるのにそれほどの不安はありませんでした。

空気がこもるのが嫌で壁を一部抜いたそう。鍛冶屋だけに湿気にも気を使うようだ。床は畳を外してシートを敷いている。

以前、薬屋の事務所として使われていた場所を秋田さんも事務仕事の場所として使っている。

玄関。仕事の道具がたくさんある。この右側が事務仕事部屋。正面奥の障子が外と中を隔てる障子。


秋田さんは、就職して働くより、自分でひとつひとつ判断して生きていく道を選んだ。

「自分のアイデアでモノを作る仕事にあこがれ、作家として作品を作れるようになるよう、広島市立大学の大学院に進学しました」

そこでさらに、専門的な技術を学び無事修了。くしくも、そのころ安芸太田町の鍛冶職人さんが高齢を理由に廃業し、継承者を探していることを知る。安芸太田町はかつて製鉄で栄えた町でもあり、野鍛冶の火を絶やさぬよう、町の雇用という形ではなく、事業継承者の募集というユニークな形で先代の残した施設設備を引き継げる希望者を募集したそうだ。

「そこに、ちょうどいいタイミングで採用されました。自分で借金して始めるとなると、ハードルが高かった。ここには、もうすでに使われた場所と道具がスタートキットとしてありました。この町では、野鍛冶がビジネスとして運営されていて、野鍛冶への需要が証明されているので、不安はありませんでした」

技術的なスキルは、先代のご兄弟に教えてもらった。鉄を扱う技術はあっても、実際に鍛冶屋が施す効率のいいやり方を教えてもらった。仕事をはじめるには、とてもいい環境だった。

建物を裏から。1階の下に半地下があるのが分かる。

現在は使っていない半地下。入居後に随分片付けられた。天井高がかなり低い。


最初に入ったのが町営住宅で1万3千円のアパートで、今は8千円

半地下:半地下空間内のコの字はナゾ。中庭にある「よその蔵」もナゾ。お風呂も増改築された跡が見える。

1階:半地下へ降りる階段が2つあって、庭によその倉が建っている不思議な間取り。水回りはすべて屋外に配置。

2階:扉も収納扉も外して大きな1つの空間のようにして、必要に合わせカーテンで仕切りをして使っている。


「最初は、町営住宅で、家賃1万3千円の2階建てのアパートに住みました。問題はなかったのですが、職場から5キロほど離れていたのと、もう少し安い物件はないかなと思って、より近いところがあったら教えて欲しいと、周りの人に相談しました」

この家は、2年前、増えてきた知り合いの一人に紹介してもらった。もともとこの建物は取り壊される予定だったが、この通りからこの物件が歯抜けになったら寂しいと、知り合いが家主さんにと掛け合ってくれました。

「それで古かったのですが、近くなるし安くなるしということで、借りました。家賃は8千円です。でも、最初に入るときに、結構内装の修理代を支払ったので、トータルではまだ安くなってないかもしれません」

増改築の跡が見られる、少し変わった間取りのこの建物。住み心地が気になる。

「古い建物なので寒いのは寒い。障子を開けるとすぐ外ですしね。それよりも、天井が低いのが気になりますね。今は畳を外しているから数センチ分の高さが確保できているのですが、それでも低い。半地下もかなり低いですからね。間取りも変わっている。これまで、薬屋さん、事務所、普通の民家として使われてきたそうです。どんどんその時代に合わせてDIYされてきた感じがします」

火鉢を入れるタイプの昔のコタツを設置した名残りが1階の天井(=2階の床面)見られる。

秋田さんは、特に古い物件が好きというわけではないらしい。この辺の、安くてきれいな物件は、4万円もかかるという。不動産情報サイトのような情報が流通すれば家賃は下がる傾向にあるのだろうが、どうしても地方や過疎地ではそういった情報の流通が少なく、不動産賃貸価格が比較的高止まりする傾向にあるのだ。

2階。和テイストの建物を自分のスタイルに合わせてカスタマイズしている。


隔週で1時間くらいかけて広島市へ出て刺激をもらっている。

ネットは集落全体に通っているADSL回線。食費も購入が多い割に、安く抑えているのは半額買いの効果?


秋田さんは今の暮らしに特に不便さは感じていない。

「いまのところ、これといった不便はありません。暮らすために必要なものは、こだわらなければたいていのものはここでそろいます。娯楽もそんなに必要なわけでもありません。でも、かといって毎日がすごく楽しいってわけでもないですね。なので、たまに気が向くと、1時間かけて、広島市内のお店に行って、都合の良いものを買ったり、刺激を受けて来たりしています」

引っ越してきてから、なかなか広島まで出られなかったが、今は隔週くらいで市内に出ているという。田舎と都会が彼にとってちょうど良い距離感なのかもしれない。

「普段の食事はけっこう買って食べています。スーパーマーケットが徒歩2分のところにあって、夜7時半から半額シールを貼ってくれるので、よく総菜を買います」

あまりお金のかからない日常のようだ。ただ、秋田さんはお金を使うところには使う。

「自分の好きなことを仕事にしているので、少しずつお金をかけて自分の好きな作業場にしていくのが楽しいです。だいぶ理想に近づいてきました。身の回りの道具でとくに金床と呼ばれる道具が好きで、去年ヤフオクでかっこいいものを見付けて、思い切って買いました。送料を入れると30万円くらいでした。ちょうどいい高さの樫の切り株を材木屋さんからいただいたので、その上に新しい金床を置く予定です。切り株がこの冬のものなので、もう少し木が乾燥してから現場に投入しようと思っているところです」

彼女がいたら買えないようなものをドンと買ってしまっている。ということは、秋田さんに彼女はいないのだろうと、現状について聞いてみた。いたりいなかったり、するらしいが、取材時はいなかった。

「彼女のいない状況が続くのは、まずいなとは思っています。日常生活の中で若い女性とすれ違うことがないので、心配です」

この集落の同い年くらいの人は、ほとんどもう結婚していて、行政主催の婚活イベントなどはないらしい。仕事に良縁が続いているように、女性にも良い縁があることを願うばかりだ。

道具と材料と、後は革靴が多いお宅だった印象。横の古い鍬(くわ)は秋田さん曰く「オーパーツ並みの技術力」とのこと。


焦らない姿勢とそれを可能にする安価な暮らし

これが秋田さんの職場。手元に置かれているのが現役の金床。少し先に置かれているのが新しい金床。


秋田さんは、24歳で仕事をはじめて3年半。生活は豊かとはいえないが、いまはまだあせらない。仕事量を増やそうと思えば、地域からの注文は増やせる。いまは、地域の人には待ってもらっているほどだ。秋田さんの仕事の仕方は、回転を重視し速度を上げて仕事をするよりも、1つ1つの仕事を丁寧にこなし、そして頃合いを見計らって、1つ1つ進めているような感じがする。仕事をするうえで、あせって、目に見える仕事の数や出来上がり、売上という『成果』を追い求めるのではなく、そのもっと土台の底上げを、地道に積み重ねている最中なのだろう。この崩すことのない姿勢を、新しい土地にて、たった1人で比較的質素に暮らしながら、維持するのは想像するよりずっとタフな作業だろう。そしてこの堅実な姿勢こそが縁を呼び込み、次の縁につなげていっているのだろう。

最後に、秋田さんは「想像するだけでわくわくする、お金をためなければいけない次の夢」として、「水車で鍛造機(作業に使う機械)を全部動かせるようにして、かつそれをぼろい水車小屋の中ではなく、コンクリートを打って、整備した工場を作って、その中で作業したい」とうれしそうに話した通り、きっとそう遠くない未来に、磨き上げたスキルと働く姿勢と周りからの信頼によって、たくさんの縁に導かれ、理想の作業場も着実に実現させていくのだろう。

(写真と文:森岡友樹、イラスト:上野麗子)

最終更新日:2018年08月30日

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