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円満相続を実現すべく押さえておきたい相続対策の5本柱とは?
いざ、自分が当事者(相続人)になると、「知らない」「分からない」では済まされないのが相続です。無論、税理士に依頼すれば助言はしてくれますが、「誰に」「どの財産を」「いくら」分割するかは相続人同士で決めなければなりません。アドバイスはしてくれますが、税理士に決定権はないからです。税理士の仕事は円満相続の「お膳立て」=「代行」であり、最終的な決定はすべて相続人が行わなければなりません。そこで、実践の第一歩として、まず知っておいてほしいのが次に挙げる相続対策の5本柱です。
【相続対策の5本柱】
対策1:円満な遺産分割
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たとえ親子や兄弟であっても、どのような家族関係であろうとも、人間が2人以上集まれば何らかの軋轢(あつれき=仲が悪くなること)が生じます。人間はわがままな生き物だからです。表面上はもめごとなく話し合いができたように思えても、心のうちでは禍根(わだかまり)を残しているのです。たかがお金の問題と言ってしまえばそれまでですが、そのお金(遺産)をめぐって「骨肉の争い」=「争続」が後を絶ちません。
特に、相続財産に不動産の割合が多いと円満相続の足かせになります。不動産という財産が分割・換金しにくい性格を有しているからです。たとえば、親が残してくれた分譲マンションを「兄弟3人で3等分して相続しろ」と言われても物理的に不可能です。マンションの名義を3分の1ずつ保有することはできますが、兄弟3人で一緒に住むのならまだしも、そうでなければ3等分する意味はありません。現金化(売却処分)すれば均等に分割できますが、面倒で時間もかかります。農地や山林となれば、処分できるかどうかも分かりません。
つまり、円満相続は遺産分割の成否によって決定付けられるのです。抱える問題は各家庭、千差万別であり、相続対策に“正解”はありません。早い段階から家族で議論・情報交換し、自分たちにとっての「解答」が何かを模索する作業が円満相続の第一歩となります。どうすれば、家族の思いを的確に反映させた相続が実現できるのか?―― 分割協議の不調を招かない努力と準備が欠かせません。
対策2:相続財産の評価額の引き下げ
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さらに、2つ目として相続財産の評価額の引き下げも重要になります。誰だって相続税の納税額は少なくしたいものです。相続税の税率は相続財産が増えるほど課税される税率が高くなる累進税率になっています。そのため、逆に相続財産の評価額を下げることができれば、その分、適用税率も下がり、結果として納税額を少なくすることができます。
近年、タワーマンション節税を封じ込めようと税務当局が監視の目を強化しています。相続財産の評価額引下げが、高い節税効果をもたらしている証拠といえます。現金を不動産に置き換える(不動産を購入する)ことで、相続税評価額の軽減を図ることができるのです。そのうえ、その不動産(建物部分)を賃貸すると一層の軽減が可能になります。「自用」ではなく「貸付用」とすることで、“利用に制限が加わる”という理屈から一定の評価減が認められているからです。もちろん不動産投資にはリスクがあるため、万能な相続対策にはなりませんが、有効な選択肢とはなり得ます。
相続税は現金納付が鉄則 現金が用意できないとどうなるの?
対策3:納税資金としての現金の用意
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続いて、3つ目の対策が納税資金の確保です。話はおよそ20年前にさかのぼりますが、元総理大臣の田中角栄氏が亡くなった際、約65億円の相続税が課されました。しかし、長女の田中真紀子さんら遺族にそれだけの現金は用意できず、約35億円は現金で納付しましたが、残りの約30億円は目白(東京都文京区)にある私邸の一部を「物納」で納付しています。
物納とは現金による一括納付が困難な場合、相続財産(現物)そのものを提供して支払う納税方法です。物納には税務署長の許可が必要で、現金納付が困難と認められるに足る十分な理由がなければなりません。あくまで現金納付の例外という位置付けです。従って、安易な物納は認められません。相続税の申告・納税は相続開始から10カ月以内です。それまでに全額を現金で支払えるだけの準備が欠かせません。
対策4:残された遺族の安定した生活の確保
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4つ目は、残された遺族の安定した生活の確保です。ここで改めて、相続の主目的は円滑な資産の世代間移転ですが、同時に内助の功に対する謝意や遺族の生活保障といった意義も含まれています。遺族が不幸になっては故人も喜びません。
そこで2018年7月、相続に関する法律の改正法が成立しました。「配偶者居住権」という新しい権利が創設されました。配偶者居住権とは、残された配偶者が住まいと生活資金に困らないようにするための権利で、配偶者が遺産分割により自宅を相続した場合、他の相続人にもできるだけ均等に配分する必要があることから、自宅は確保できても現金(今後の生活資金)が手元に残らないという不安を解消する狙いがあります。今後は配偶者居住権の活用により、住み慣れたマイホームに居続けながら、遺産分割時には現金も受け取れるようになるのです。残された遺族の安定した生活の確保なくして、円満相続は完遂できません。
対策5:二次相続の準備
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そして、最後が二次相続の準備です。日本人の平均寿命(2017年)は女性が87.26歳、男性が81.09歳ですので、平均値からすると夫婦では夫が先に亡くなり、その後に妻が亡くなる順番となります。このケースでは夫が亡くなったときが「一次相続」、妻が亡くなったときが「二次相続」となり、残された子供たちは二次相続までを視野に入れた対策が求められます。
なぜ、二次相続対策が必要かというと、相続税法には「配偶者控除」という配偶者を税制優遇する仕組みがあり、(1)1億6000万円、(2)配偶者の法定相続分 ―― 配偶者の相続金額が(1)(2)いずれかまで、配偶者に課される相続税が無税になります。
とても減税効果が高い分、配偶者がいなくなった二次相続では当該控除が使えなくなることで、子供たちには二次相続時に多額の相続税が課される恐れがあるのです。そのため、一次相続が発生した段階で二次相続まで視野に入れた対策が求められます。一次相続と二次相続を合計した金額で最も納税額が少なくなるよう、一次相続の段階から遺産分割の割合を調整する必要があります。分割割合を変えてシミュレーションし、一次・二次トータルでの納税額圧縮を図る必要があります。
相続が発生すると被相続人(亡くなった人)名義の金融機関口座が凍結されるのは、なぜ?
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続いては、相続発生後の手続きについて説明します。相続が発生すると相続人は様々な届け出や手続きをしなければなりません。例示すると、以下のようになります。
相続発生後の手続き
ざっと並べただけでも12項目になりました。この中で特に注意したいのが、最後に列記した「金融機関に口座がある場合」の取り扱いです。
金融機関は名義人の死亡を知った時点から故人の口座を一方的に凍結します。そのため、相続手続きが完了するまで入出金や金融商品の売買ができなくなります。また、同時に口座振替も停止するため、電気やガス・水道などの料金が引き落とせなくなり、気付かずに滞納が続くとライフラインの供給を停止されてしまいます。これが家賃や住宅ローンの滞納となると、さらに面倒なことになります。
ところで、なぜ金融機関は口座を凍結するのでしょうか?―― 理由は相続財産の保全にありました。たとえば相続人が勝手に故人の預金を引き出してしまうと、相続財産を評価する際、口座の残高が変動して金額を確定できません。納税すべき相続税額も不正確なものとなり、納税申告を妨げます。さらに、相続人のひとりが黙って口座から引き落とすと、均等な遺産分割にも支障をきたします。他の相続人に不利益が生じ、円満相続の実現を妨げます。こうした理由をかんがみれば、口座の凍結はやむを得ないと個人的には感じています。
不動産の名義変更は、いつまでにすればいいの?
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最後は不動産の名義変更についての説明です。遺産の相続や、それに伴う財産の名義変更、相続税の申告・納税はれっきとした法律行為です。そのため、特定の相続手続きには期限が設けられており、その期間内に手続きを終えなければなりません。となると、確認しておきたいのが不動産の名義変更のタイミングです。相続により故人の不動産を引き継いだ場合、いつまでに名義変更しなければいけないのか、その期限が気になります。
結論を申し上げると、不動産の名義変更に期限はありません。3カ月後でも10カ月後でも、あるいは1年後でも5年後でも問題ありません。そもそも相続登記は“任意”であり、相続発生のたびに名義を書き換えることを義務付けていません。各人の都合でかまわないのです。
ただ、相続登記が任意であることによる弊害が社会問題化している点は知っておいてください。現在、所有者が不明の土地や空き家が増大しているのです。相続登記が行われなければ、登記簿上の名義は故人のままとなり、さらに何代も放置され続けて世代交代が進めば、相続人の数は膨れて行方もわからなくなります。権利関係は複雑になり、所有者の特定が難しくなります。こうして所有者不明の土地が増えていくのです。
事態を重く見た政府は相続登記の義務化を検討しており、法制化へと動き出しています。たとえ任意であっても相続登記はしておくべきなのです。所有者を明確にしておくことで、“次”の相続発生時に無用なトラブルを避けられます。
「円満相続の第一歩は事前準備から」―― 改めて、この点を強調しておきます。
(文:平賀功一)
【参考サイト】
最終更新日:2019年03月15日
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